はあ。宅とも、よく相談しまして、二、三日内に、ハッキリしたお返事をいたします。」と、どこか打ちとけない返事であった。
もう、すっかり定《きま》ったことと安心していた新子は、急に、夫人の手で三、四尺|後《うしろ》へ、押しのけられたような気持であった。
新子は、急にバツがわるく路子か準之助かが、何か一言取りなすような言葉をはさんでくれることを望んだが、二人とも何ともいってくれなかった。
「では、何分よろしく。」
新子は、自分の身が、みじめに感ぜられ、モジモジしながら、暇《いとま》を乞おうとしている機先を、夫人は見事に制して、
「まあ。およろしいじゃありませんか。食事の用意を申しつけてありますから、路子さんや子供と一しょに召し上って下さいませ。私も、ご一しょだといいんですけれど、ちょっとこれから、外出致しますから、あしからず。」といいさして優美に腰を浮かせると、新子が眼のやりばにこまったほど、色っぽい眼差しで、夫君を見おろして、
「じゃ、貴君《あなた》、私は行って参りますから。」と、やさしく、しかし、誇りかに挨拶すると、子供達の方には眼もくれず、部屋を出て行ってしまった。
子供達は、
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