の。行かないかって、添田さんに誘われましたの、八時半頃に迎いに行くって、電話がありましたから、支度をしてしまったんですの、お食事少ししか頂かないわ。」夫人は、普段より、ズーッとおとなしい。準之助氏は、ホッと安心して、
「沢山集まるのかい。」
「ええ、フランス大使のお嬢さまや、松平侯爵夫人なんかいらっしゃるらしいわ。……貴方《あなた》は、この頃少しもお踊りにならないわねえ。ゴルフも一時ほど熱心じゃないし、今に肥っておしまいになるわ。」
「肥ったら、わるいだろうか。」
「肥った男なんて意味ないわ。私、嫌いよ。ダンスにも、お出かけなさいましよ。たまには。」
 と、ひどく愛想がよかったが、でも今宵誘おうとするのでもなかった。父母の会話を外《よそ》に兄姉達は、喰べるのに忙しい。殊に小太郎の健啖ぶりは、痛快と云うよりも、親の眼からは、あの小さい身体のどこへはいってしまうのかと、ハラハラするほどで、スープと肉と、その後のトルヴィルというケチャップで、色をつけた鳥めし[#「めし」に傍点]のような前川家自慢の料理を、大きい皿でおかわりをして喰べている。
「よく喰べられるね。お腹大丈夫かい。」と云う良人の
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