見事なトサカを持ったレグホン種の真白い雄鶏《おんどり》が、納屋から飛び出して、ときを作った。
 白い綿雲が邪魔扱いにされて、低い空をグングン流れて行く、一番いたぶられた月見草や芝草が、綺麗に露で化粧をして、あまやかな土から、徐々に頭をもたげかけている。
 別荘の窓が、一つ一つ開けられる。
 綾子夫人の部屋からは、スキーパの魅惑的な恋の歌が、流れ出す。階下《した》の子供部屋から、小太郎が、

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雨、雨、降れ! 降れ!
母さんが
蛇の目でお迎い嬉しいな。
ピチ、ピチ、ジャブ、ジャブ、ラン、ラン、ラン。
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 と、歌いながら飛び出して来た。
 準之助氏は、水を吸って重くなった靴を、三和土《たたき》に脱いだ。靴下から湯気が出ている。
「やア。パパのびしょぬれ! 野良犬みたいに、なっちまった!」
 小太郎の歓声に、準之助氏は、人知れず頬を染めて苦笑しながら十分ばかり先へ帰した新子が、目立たないで帰れたか、どうかを考えながら、二階へ上って行った。
 レコードが、ピタリと止まると、笑った夫人の顔が、廊下へ現れた。
「まあ! たいへんね。どこで、雨にお逢い
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