《たて》にえがいた。殷々《いんいん》たる――と云うのは都会の雷鳴で――まるで、身体の中で、ひびき渡るような金属的な乾いた雷鳴が、ビリビリと、四辺《あたり》の空気を震動させた。

        六

 新子は、天変地異に対する恐怖の念で、半ば意識を失ったような気持で、準之助氏の方へ駈け寄った。
「大丈夫! だいじょうぶ!」と、云う準之助氏の声も、次に、豆のはぜるような音を立てて襲って来た雹雨《ひょうう》の音に、かき消された。
 二人は、一心に、径《こみち》を下った。ゴルフ扮装《いでたち》の準之助氏は、何のことはなかったが、新子のフェルトの草履は、ビショぬれになり、白|足袋《たび》に雨がしみ入る気味のわるさ。もう、落葉松《からまつ》の林径《はやしみち》に出ているのであったけれど、雨はますます猛威をたくましくして、落葉松の梢は風に吹き折られそうに、アカシヤは気味わるいほど、葉裏をひるがえして、風に揺られ雨に痛振《いたぶ》られていた。まして、雑草や灌木は、立ち止るひまもないほど、雨と風とに叩き潰されていた。
「こちら! こちらですよ。」と、いつか鳥打《ハンチング》を失くしてしまっていた準之助
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