石燈籠が、ずらりと両側に並んで、池の端から、下谷の花柳界の賑《にぎわ》いの灯が、樹間《このま》に美しく眺められた。
「ただ、お友達の印だけの、かるい接吻《ベーゼ》がほしかったのに……まるで、恋人同士みたいなこと、するんだもの、あんなのいや。」
近寄ると、美和子の顔が、頼りなげな、泣き出しそうな感じである。
一擒一縦《いっきんいっしょう》! 子供と油断したが、これは天性の娼婦《コケット》である。
(しまった!)と、美沢は刹那に感じた。
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突風来
一
祥子《さちこ》は、綴方《つづりかた》や童謡などを好んで、即興的につくるのに、小太郎は面倒くさがり屋で、数学や理科が好きで、国語ことに綴方など、大嫌いという性質であった。
だから、夏季休暇中の宿題となっている綴方はもちろん、一日一日の日記帳の小欄に、たとえば(町でも屈指の財産家となる)とか(まことにもっともな話である)などという断片的な文章を用いて作る短文などは、一から十まで新子にまかせたきりである。そして、自分では何もしようとしないので、昨日《きのう》小太郎がパパに連れられて、国境平の奥の
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