ないんだもの……」
「駄々っ子だねえ。じゃ、小母さんの帰るまで、飲まず食わずにいるさ。」と、いって美沢が美和子と、さし向いに坐ってチェリイをつけると、美和子はすぐ羞《はずか》しそうに、唇の傍に手をあてたり、下眼づかいをしたり、いたいたしいほど、処女めいた表情をする。彼は、このお嬢さんを、いかに扱うべきか考えずには、おられなかった。
「靴下がとても、汗ばんで気持がわるいの。ちょっと、取っていてもいいかしら。」
「いいさ。」
美和子は、立ち上ると、それでもしおらしく、後《うしろ》を向きながら、スルスルと靴下を取ったが、かの女は彼の眼を、さっぱり恥かしがっていなかった。
「ねえ。随分毛深いでしょう。」
「うん。」
惜気もなく、前に出された裸の脚に、美沢は、ふーっと瞼や唇元《くちもと》を、温い風に吹かれたような気持で、
「僕なんか、キレイなものだ!」と、自分も、ちょっと浴衣《ゆかた》の裾を、あげて見せた。
「厭やン。男のくせに、そんなにのっぺりしたの気味がわるい。」と、いいながら、盛んに自分のスカートを引張り降して、
「毛ぶかい人は、情が深いって! 貴君なんか薄情なのよ。」まるで、年増|芸
前へ
次へ
全429ページ中137ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング