忘れて、頼もしく嬉しくありがたく思うばかりだった。
姉の歓喜、輝きに充ちた舞台姿などが、胸の内に浮び上って来る。
なごやかな感情と、充ち溢れる感謝とを、新子は、
「ありがとうございます。」と、簡明にいい表した。
不当な謝礼を貰った上に、不当なお金を借りる、慎まねばならぬと思いながら、結局新子は、準之助氏に甘えているのであった。
小太郎は、緑色の自転車に乗って、前庭を、クルクル廻っていた。
「どうぞ、いつまでも、僕の家にいらっして下さい。」
「それは、私の方からお願いすることですわ。」新子の言葉に初めて、媚態らしいものが、ほのめいた。
「僕は、いつも貴女に、今のような晴れやかな顔をして、いてもらいたいのです。お困りになれば、どんなご相談にでものりますよ。」気がつくと、準之助氏があまりに、身近にいるので、新子はハッとして一歩退いた。
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姉の代りに
一
美沢は、新子からの手紙を受けとった。
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おたより有難う存じました。
小さいお嬢さんが病気になったので、その方に気を取られて、四、五日お手紙を書けなかったのですわ
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