《りょうかい》さえ得れば、それでいいんだわ)大それたという気がないでもないのを、圭子は強いてまぎらして、新子の便箋は、チギレチギレに裂いて、為替だけをハンドバッグに入れた。
その時、階下《した》から妹の声がして、
「お姉さまア。」と呼ばれたので、ハッとして、
「何?」と、訊き返すと、
「あのね。いま、誰が来ましたかって、お母さまが訊いていらっしゃるのよ。」と、美和子の声が、飛び上って来た。
さすが、ドキッとする胸を押えて、
「いいえ。誰も……」
「でも、玄関が開きやしなかったかって?」
「ええ、押し売か何かよ、断ったのよ。」切羽つまったウソをいった。
下からは、それぎり何の応《こた》えもなくなったので、圭子はホッと、安堵の思いをした。
さっき、書留を見た刹那《せつな》、為替証書を見た刹那、精《くわ》しくいえば、無意識に懐《ふところ》へしまったまでに、わずか二、三分たらずの間に、圭子の心は、決していたのである。
このお金が、どんなお金であろうとも、自分のしていることが、どんなに無法であろうとも、ともかくもこのお金は、小屋代に――と思ったのである。しかも、母も美和子も、書留の来た
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