を、自分に対する非難だと思ったらしく、
「だから、僕は貴女が、お帰りになるのを待って謝ろう、いさぎよく貴女の制裁を受けようと思っていたのですが、貴女は美和ちゃんから、どういうことを聴かれたのかもしれないが、今日まで一切何も云ってくれないでしょう。勝手なうぬぼれかもしれないが、口に出して云わなくっても、お互に愛人同士だと思っていただけに、貴女の無言は、貴女の気持を見失ったように思われ、ボンヤリしてしまったんです。それに、僕は自分で犯した罪があるだけに、自分の方からは図々しく、貴女の方へ働きかけることが出来なかったのです。その内に、貴女と前川さんとが……あの方、前川さんでしょう……帝劇から出るところを見てしまったんです。失恋とは、こんなものかなあと思うほど、みじめな気持になってしまったんです。美和ちゃんとのことなんか、あの人から渡される芝居の役柄のような立場を、苛々《いらいら》しながら、勤めていただけですよ。」
 言葉づかいは改まっていたが、心のままを素直に打ちあけられて、新子は悲しかった。
 軽井沢から、帰って来て、すぐにも美沢のところへ行かれなかったのは、自分にも美沢と同じあやまちがあったからである。
 美沢が苦しんでいたくらいは、自分も苦しんでいたのだ。と、急に泣けるくらい、悲しくなって来たのをこらえて、
「ごめんなさいまし……」と、云った。
「貴女は何を謝るんですか。」
 美沢は、駭《おどろ》かされたらしかった。美沢は、あやまってはもらいたくなかった。謝ってもらうかわりに、許してもらいたかった。
(そう。美和子のことなんか、どうせあんないたずらっ児相手のことですから、何とも思っていませんわ)と、云ってもらいたかった。
 しかし、新子の心に、前川の落している翳影《かげ》は、かなり大きかった。新子は、自分の心持を打ちあけ、お互に許し合って、三月前の二人に帰るべく、あまりに複雑した気持になってしまっていた。

        八

「貴女が謝ることはない。僕は、ちっとも貴女に謝ってもらおうと思って来たんじゃない……悪いのは、僕だもの。失策をした僕としては、勝手な云い草だけれど、僕に過ちがあるにしろ、貴女が一度も僕を詰《なじ》らずに、冷然としているんで、僕は何だか貴女が恨めしくなってしまったんだ。貴女とは、お互に随分好きだなんて、思っていたことが、全然僕の独り合点だったんだと思った。すると、何から何まで厭になってしまって……」
 そう云いながらも、美沢は自分の云いたい気持が、ハッキリ掴めなくなったように……自分に対しても、新子に対しても、もの足りなさや、苛立《いらだ》たしさが、湧き返って来たように、綺麗な眉や眸を、高い鼻の上へ、きゅっと寄せてしまった。
 だが、美沢が何を求めているか、何のために苛立たしくなっているかは、新子にはよく分っていた。つまり、自分の愛である。どんな形式でもいいから変らざる愛を示す一つの言葉である。それが、分っていながら新子は、素直にそれを与えることが出来なかった。
 美和子のために、新子は美沢をあきらめてしまったはずであった。美和子と醜い争いをするのが嫌で、美沢を美和子に呉れてやったつもりでいた。しかし、もしそれならば、美沢が美和子との関係を告白し、それが感覚的な一時の過ちであったことを謝っている以上、……また美和子が、美沢に対して、ケロリとしてしまっている以上、美沢を許して、以前のような愛人関係に……いな雨降って地竪まるように、前よりももっと具体的な愛の誓いを交してもいいはずではないか。新子自身さえ、それがそうなるべきはずであると思いながらも、気持はその方へ、ちっとも動いて行かなかった。
「貴方のお気持よく分っていますの。でも、私軽井沢から帰ると、いきなり美和子から聞かされてしまったんでしょう。その上お母さままでいらしったんでしょう。それですっかりもう決心しましたの……それに、私も母を抱えておりますし、あんな出鱈目な妹を持っていますし、姉は家のことなんか、かまってくれませんし……結局、独立して何か商売がしたくなってしまって……」
「じゃ、つまり貴女は前川さんに、この店を出してもらったんですか……」
 笞刑《ちけい》を受けている囚人のような声で、切れ切れに云う美沢の言葉には、言外の意味も含まれていて、新子はギョッとした。

        九

 前川に店を出してもらったかという露骨な問いは、新子のそこだけは触ってもらいたくないと思っている心の点に、触れたので、新子は咄嗟《とっさ》に答えられず、だまって卓子《テーブル》の上に目を落した。
 そうした態度は、つまりその質問を肯定していることなので、美沢はすっかり絶望的になってしまって……。
「貴女のお手紙にある、変ったと云うのは、どういう意味ですか……」と、
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