べく意識しないように、
「貴君のお母様からも、お話がありましたし……美和子も、貴君と結婚したいように申しておりましたんですけれど、……この頃美和子は、まるで貴君とも、全然お目にかかっていないようだし、一体どうしたんでございましょうか……」
 美沢は、無言である。つねさえ、あまり口数をきかない人が、何か一杯抗議を盛った沈黙で、向い合われると、新子は勢い、自分一人で喋りつづけるほかはなかった。
「それに、この頃の美和子は、まるで結婚前の娘とは思われないようなことばかり致しておりますの。頼みも致しませんのに、この店へ手伝いに参りまして、毎晩遅くまで、お客さまの相手をして、酔っぱらったりなんか致しますの……。貴方《あなた》とのお話があるのに、何ですか、することなすこと、私には腑《ふ》に落ちないことばかりですの……。だから、一度貴君にお目にかかって、貴君ご自身の美和子に対するほんとうの気持を、お訊きしたかったんですの。」
 しかし、美沢はまだ無言であった。
「私も、いろいろお話しいたしますわ。貴君のお気持も、うかがってもいいんですわ。……とにかく、改めて美和子の姉として、貴君にお願いしたいと思いますの。」
 美沢は、やっと苦笑して、
「お互に、あさましい話をするようになりましたね。」と、云った。新子もともに、やや笑った。
「だって、仕方がありませんわ。」
(貴君も、私も同じように失策をしたんですもの)と、後の方は心の中で云った。

        六

 二人とも、やや核心にふれた物云いをしたので、思いがけなく、心の角《かど》が除《と》れ、新子は急に話しやすくなった。
「美和子ね。まるで、とり止めがなくて、手こずっているんですよ。貴君が、結婚して下さるおつもりなら、貴君に監督をお願いしようかと思って……。私の云うことなんか、てんで聴かないんですもの……」新子は、以前の親しみが、半分以上、甦ったような物云いが出来た。
「いや、美和子さんなんて、誰の手にだって負えるもんですか。あの人の気持なんか、僕になんか分りませんよ、千変万化ですよ、僕なんかいい加減、引っぱり廻されていたんですよ。……」そう云って、美沢は、改めて眉をひそめた。
 そう云われてみれば、温和《おとな》しく純真な美沢に、美和子を操る力など、最初から無かったことに、今更のように気がついて、新子は更に、味気ない気になった。
「それよりも……」
 美沢は、じっと新子の眼を見つめながら、
「僕は、貴女のお気持が聴きたいんですよ。貴女は、どうして軽井沢から、帰って来ながら、すぐに僕のところへ、手紙なり姿なり見せてくれなかったんですか。」と詰《なじ》って来た。
「その時、すぐにも貴女に会えたら、こんな妙ちきりん[#「ちきりん」に傍点]な三角関係なんか、出来なかったんですよ。僕も、いけなかったですけれど、新子さん! 僕は、貴女に洗いざらい打ち明けて、美和子さんとの話は、打ち切りたいと思ってやって来たんですよ。」
 新子が、何か物云う隙もなく、後をつづけた。
「美和子さんは、貴女とはまるで違う。明るくて、無頓着で、超人的な魅力を持っていますよ。それだけに、誘惑されたり、征服慾を誘われたりするものの、心の底からの愛情の動きなんかちっとも感じられませんね。あの人は、心を持たない女ですよ。結婚するには、感覚的な刺戟や、性的魅力の有無などということよりも、心の愛情が一番大切なんじゃありませんか。あの人は、ただあそびのお友達ですよ。ほんとに、心を委せておけるような……」
「でも……貴君のお母様のお話では……」
「母のことなんか云わないで下さい。美和ちゃんは、あんな年寄なんか、掌中に丸め込むのは、お手のものじゃありませんか。それも、僕をほんとうに愛しているからじゃなく、ただ興味本位の一時のお芝居なんですよ……だから、もう飽きてしまって、僕のところへなんか寄りつかないじゃありませんか。」
 藪を突ついて蛇! 美和子の煩《わずら》わしさを突き去ろうとして、思いがけなく、美沢との煩悩《トラブル》をつつき出した形である。

        七

 美沢も、なお言葉をつづけた。平生、口数の少いだけに、こうなるとその切々とした述懐に、力が籠《こも》って来るのである。
「貴女が軽井沢へ行かれた後、不意に美和ちゃんに、訪ねて来られて、その晩か次の晩に、接吻をしてしまって失敗《しま》ったと思ったんです。何の深い考えもなく、全く突発的な出来事だったんです……しかし、僕は、貴女にすまないと思いました。」
 そう云われると、新子は自分をアテこすられているようで、身が竦《すく》む思いがした。しかし、(私も、それと同じことがあったんです。全く突然で、深い考えもなく……)とは、告白できなかった。
 美沢は、新子の表情が易《かわ》ったの
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