来ないわよ。私のお友達に、適当なのがあるわ、つれて来てあげるわ。」
 新子は、美和子を見ながら、妹も満更役に立たないこともないと思った。美和子のお友達だったら、女学校は出ているし、モダンな娘だろうと思った。
「だって、貴女《あなた》のお仲間、そんなところで働くような境遇の人いないじゃないの?」
「いるわ、一人。働きたい働きたいっていっているの。もう先《せん》、仲のよかった人よ。ちょっと、可愛い人よ。」
「そうお。じゃ、早速連れて来て見せてくれない。」と、美和子の側《そば》へ坐ると、美和子も興奮しているらしく、美しい鳶《とび》のように、眼をかがやかしていた。
「お姉様ア、美和子も、手伝わしてよ。ねえ、いいでしょう。私、知合いのボーイを沢山、引っぱって来るわ。」新子は、初め美和子が冗談を云っているのかと思ったが、彼女はますます双眸を輝かして、
「美和子なら、いいじゃないの。お互に監督し合えばいいわ。前川さんは、スマートで、お金持なんでしょう。お姉さん、一人じゃ危いわ。」
「何を云っているの! 貴女は、美沢さんと結婚するのじゃないの。」
「そんなに、早く結婚なんかしないわ。つまんないもの。それに、美沢さんの月収、いくらもないのよ。美和子のお小遣いくらい自分で稼げばうれしいわ。ねえ、美和子を使ってよ。明日《あした》一しょに、お店へ行くわ。」新子は、やはり美和子には、後で話せばよかったと思った。
「いやですよ。およしなさい。」
「ほんとうに、美沢さんのお母さんも、どうおっしゃるか分らないし……」傍《そば》から、母が口を出した。
「とにかく、開業の時お友達をつれて、行ってみるわ。行ってみるだけなら、いいでしょう。」と、ずるそうに笑った。

        二

 いくらお膳立が整い、箸を取るばかりになっているとはいえ、無経験な仕事であるだけに、開業日が迫ると共に、足の地に着かない、わくわくした落着かない気持がした。
 二、三日して、美和子が、お友達の杉田よし子という少女を連れて来た。顔立のいいというわけではなかったが、色白で骨細《ほねぼそ》で、誰からも嫌われはしないといった型の、いかにも酒場《バー》の女給に、ふさわしい娘であった。
 準之助氏が、以前会社に使っていたという給仕上りの娘を、一人世話してくれた。色の浅黒いチンマリかわいい顔立で、身体もガッチリしていて、いかにも働けそうだった。妙子と呼ぶことにした。
 案内状は、主に準之助氏の知人関係に配られた。
 二十日、いよいよ開業の日である。美和子が、(お姉さま、今日だけは、わたし、とにかく手伝ってあげるわ)といってくれたのが、頼もしく思えたほど、心配だった。
 四時に店を開けてみると、最初一時間半ばかりは、お客がなかったが、六時近くになると、珍しいもの好きな銀座マンが一人はいり、二人はいり、ソファと椅子とに坐り切れず、予備の小椅子まで持ち出す盛況であった。
 手伝いに来ただけの美和子が、一番大車輪で、お客の註文など、一つも間違えず、
「お新規さんよ。キング・ジョージが二つ、それからソーセージが二つ。」などと、よし子や妙子を使い廻しての奮闘ぶりに、新子はなるほど、妹が自信ありげに、手伝いたがるはずだと、スタンドの陰で、微笑しつづけていた。
 それに、ベビー・エロと云ってもよい、美和子の白いスカートに黄色い腕なしのブラウスをつけた姿は、あらゆるお客の注視の的となり、いつの間に名を訊かれたのか教えたのか、
「美和子さん。美和子さん。」と、ひっぱりだこになっていた。
 新子は、美和子の持っている性的魅力の強さに驚きながら、(妹を使えば、お店の繁昌は疑いないけれど、でも使うのはいやだし……)と、迷っていた。
 準之助氏は、もし都合がつけば開店の景気を見に来るといっていたが、とうとう来ず、九時近くになって、電話がかかって来た。
「どうです、景気は?」
 新子は、わくわく胸を躍らせながら、
「たいへんな景気よ。ちょっといらっしゃらないこと?」
「もう、家へ帰ってしまったのです。」
「まあ、お家から?」
「はあ。」
「つまんないわ。」
 新子は、物足りない気がして、ついそんなはすっぱな言葉づかいをしてしまった。こうして家を持たしてもらうと、ただ出資者というものに対する感情以外のものが、もう胸の中に出来上っているのであった。

        三

 上々吉の開業日の、あくる日だった。
 まだ暮れて間のない七時頃に、美和子はお友達を五人連れて、勢いよく乗り込んで来た。その中に、相川さんというお嬢さんは、新子も一、二度顔を見たことのある美和子の親友だったが、他の四人は見知らぬ青年達で、美和子のいわゆる男友達《ボーイ・フレンド》らしく、美和子のその青年達に対する態度は、傍若無人であった。
「ねえ。お姉さま、こ
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