顔をしているじゃありませんか。」
「あら、取り込みなんて、よし子がいったの? 取り込みなんかじゃないわよ。ただ、前川さんが、会いたくない人が来ていたのよ。」
「じゃ、昔お姉さんの恋人であった人で、今度貴女と結婚するという人?」
 美和子は、ちょっと憤《いきどお》った顔をして、
「自分のお蔵に、火がついたのも知らずに、何を云ってんの。私達の恋人じゃないわよ。貴君《あなた》の恋人よ!」
「嘘、おっしゃい!」
「嘘なもんですか。前川夫人が乗り込んで来たのよ。」
「僕の女房? ウソでしょう。」
「そらそら、すぐ色を失うくせに、……嘘なもんですか。」
「綾子が……どうして……」前川は、きれぎれに呟いた。
「どうしてだか、お家へ帰って奥さんに訊くといいわ。」
「綾子が、あの家を知ってるわけはないんですよ。冗談にも、そんなことを云うものじゃありませんよ。」
「そんなに、興奮しないで、落着いて、落着いて! とにかく、私がどうにか帰したんだから。」
「本当ですか。」
「本当よ。」癪《しゃく》にさわるほど、美和子は落着き払っていた。

        三

「グレープ・ジュース、氷沢山入れてね。」と、ボーイに命じて、後は前川の張りついたような顔に、愛らしく笑いかけて、
「貴君の奥さんと、やり合ったんで、喉が乾いちゃったの。……でも、不愉快だわ。」
「貴女が、やり合ったんですか。」前川は、気の毒なほど、蒼くなっていた。
「そうだわ。だって、新子姉さんは、何にも云わないんだもの。だから、マダム、俄然《がぜん》威張っちゃって、お姉さんを泣かしてしまったんだから……」
「お店で、ですか。」
「お店で、始まりそうだったから、二階へ上げちゃったの……」
「二階でね。」前川は、秘密の核心を衝かれたように、憂鬱な顔になって、
「しかし、こんなに早くどうしてあの店が分ったんでしょう。」
「圭子姉さん、ご存じ?」
「知っています。」
「あれが、マダムに籠絡《ろうらく》されているんだから、世話はないの。私が圭子姉さんに頼まれて、だらしなく案内してしまったの。」
「圭子姉さんか、ウッカリしていた……」
 物事の径路がハッキリして来ると、今までは半信半疑であった事件が、マザマザと考えられて来、妻の露骨な仕打ちが、わが事のように羞《はじ》らわれて来た。
「奥さんも、随分思い切ったことなさるわねえ。たとい、お姉さん
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