を疑っていらしっても、いきなりここへ来て、直接行動を取るなんて、ひどいわねえ。」
「ひどい――とんでもないことをする。」前川は、憮然としている。
「前川さんも、いけないのよ。奥さん一人を、操縦できないくせに、私のお姉さんを、どうかしようって、ムリよ。」前川は、この小娘と思いながらも、返すべき言葉がなかった。
「それに、お姉さんを、心では二《に》っちも三《さ》っちもないほど、好きんなっていながら、いつまでも穏便主義でやろうなんて、ムリだわ。ムリというよりも、意気地がないわ。四十男の感傷主義なんていやだわ。女学生の作文のような恋愛なんか、いやだわ。そんな中途半端だから、お姉さんも苦しみ、貴君も苦しむのよ。やるのなら、ハッキリした方がいいわ。」
「ははははは。」
前川も、つい苦笑してしまった。しかし笑いながらも(負うた子に、浅瀬を教えられ)と、いういろはだとえ[#「いろはだとえ」に傍点]を思い出していた。
「じゃ、あたし行ってお姉さんを代りによこすわ。よく慰めてあげて頂戴ね。お姉さん、随分考え込んでいるわよ。」と、いうとスラリと立ち上って、早くも入口の方へ、二、三間歩み去っていた。
四
風のように、美和子が去ってしまうと、前川は、しばらく味気《あじき》なさそうに、煙草を吸いつづけた。
世の常の良人《おっと》ならば、かかる場合には、たまりかねて、飛び出して来た自分の妻の心根にもかなり同情するのであろうが、同棲して以来、十幾年、常に夫人の高慢な意地の悪さに、悩まされる前川は、夫人の人格的な欠点を、洗いざらい見せられたように、眼の前が暗くなり、妻に対して、落莫たる味気なさを感ずるばかりであった。
五分、十分、新子の来るのが、なぜか手間どった。新子が、どんなに、厭がっているだろうということが、分っているだけに、気が気でなかった。
重ねて、何を註文する気にもなれず、卓の上の一輪ざしの、名も知らぬ西洋草花をじっと見ていた。
「お待たせ致しました。」
ハッとして、顔を上げると、急いで化粧したらしく、乱れのないいつもの新子が、それでもやさしく微笑しながら立っていた。
「すみませんでした。」
前川は、まじまじしながら、頭を下げてあやまった。
新子は、唇のあたりに、ちょっと悲しい影を漂わせて、しかし眼は前川の気を、引き立てるように笑いながら、微《かす》かに
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