最後であると考えねばならなかった。
もし、またそれを続けるとしたならば、今以上に、太陽の当らぬ日蔭の地を選ばねばならないし、またどこに隠れていようとも、ゲー・ペー・ウーのように鋭い夫人の眼を怖れて、常に恟々《きょうきょう》としていることは、新子の堪え得るところではなかった。
今こそ、前川の周囲から、身を引いて、明るいところへ、新しい生活を築き直すべき機会であると思った。
新子が、ふかくうなだれて物を思っていると、女給《ウェイトレス》のよし子が、不安な表情で上って来て、小声で、
「先刻、前川さんがお見えになりましたので、美和子さんのおっしゃったとおり、資生堂で待っていて頂くように、申上げておきました。」と、いった。
「あら、そう、どのくらい前。」
「たった今でございます。」
「お姉さま行く?」と、美和子は姉を見た。一歩《ひとあし》、店を出ると、すぐ前川夫人につかまりそうな気がして、新子は会いに行く、勇気が出なかった。
「じゃ、私、行って来るわ。とにかく、事件を報告してくるわ。あの人にも少しいってやるの。」と、新子が、止める隙もなく、美和子は一散に店を飛び出して行った。
二
(今取り込みがありますのよ。資生堂で、しばらくお待ちになっていて下さいませんか、とおっしゃっていましたわ)と、よし子にいわれて、しかも奥を気にするその態度に、そわそわした不安が感ぜられたので前川は、(あ。よし!)と、軽くうなずいて引き返すと、指定されたとおり、一町とはない資生堂まで歩いて、空いたボックスを探して、腰をおろすとアイスクリームを註文した。
取り込みって、何だろう。姉妹《きょうだい》喧嘩でも、始めたのであろうか。それとも、姉から妹に移ったという若い音楽家でも、飛び込んで来て、事件《トラブル》でも起したのであろうか、などと今までに例のないことだけに、狐につままれたような感じのなかにも、新子の身を案ずる不安が漂っていた。
だが、十五分とも、待たないうちに、待っていた姉の代りに、美和子が入口に現われ、わざと入口から見えるような位置に腰かけている前川を見つけると、思いの外に元気のいい笑顔で、近づいて来た。
「やア。」と、笑顔で迎えれば、
「のん気な、顔をしてんのね。」と、きめつけられて、
「おや、あべこべじゃないですか。そちらこそ、取り込みがあったというのに、のん気な
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