ぎりで会う時は、部屋の扉《ドア》を開けておくと云う、日本は、それほどでないにしても、ベッドの在る部屋で会っていれば、どんな疑いをかけられても仕方のない道理なので、急所を衝いて来る夫人の言葉に、新子はまた一太刀斬りつけられた思いで、
「でも何にも……」といったまま、後の句が継げないでいると、夫人は緩急自在、やや鋭鋒を収めた形で、
「まあ、いいわ。今までのことは、どうだっていいわ。よしんば、貴女と主人との間に、何かあったにしろ、どうせ主人の気紛れか過失だったと思いますわ。主人が、貴女のような人を本気に愛しているなんて、考えられないんですもの。だから、今までのことは深く咎《とが》めないわ。ただ、これから、先のこと私の心配しているような醜聞《スキャンダル》が、世間に広がらないように貴女にも考えて頂きたいのよ。そのために、私恥を忍んでここへ来たんですから、貴女だって、いずれはお嫁にいらっしゃる身体でしょう、今下らない噂なんか立てられたら、一生の恥じゃありません?」
そう云われれば、そのとおりには違いない。しかし、新子は素直に、肯《き》く気にはならなかった。
「だから、私、貴女が主人と、何でもないとおっしゃるのなら、それを信じたいわ。貴女も、信じてもらいたいでしょう。でも、貴女が潔白を証拠立てるのには、この店から、今晩にでも出て行って頂くのが一番よくないかしら。貴女が一介の雇人だとおっしゃるのなら雇人だということを、私の前で見せて頂きたいの。ねえ、南條さん! 私の申し上げることが、無理かしら。」
まず名分論で、新子をさんざん痛めつけた上、今度は実際論で、新子を窮境に追い込もうという作戦であった。
新子としても、かほどまでに悪辣な夫人に対しては、教養も外聞もかなぐり捨てて、滅茶苦茶な論戦を開くか、でなかったら、夫人の面前で前川との関係を、きれいに清算して(お騒がせしてすみません)とアッサリ引き下るか、二つに一つを出《い》でないのであり、しかも今更、夫人と、いぎたなく口争いする勇気もない以上、今はサラサラと引き下る外ないのであるが、しかし、ただこのままに出て行くのは、何と云っても口惜しく、敵《かな》わぬまでも、何かしら云ってみたく、
「でも、私前川さんから、このお店を、お預りしているんですから、前川さんから、お話がない以上は……」と、云いかけると、夫人は軽く引き取って、
「そ
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