にさわった。
「もう多分、お帰りになるだろうと思いますが、ハッキリしたところは……」と、背後に、夫人の気配を知ってオドオドと、受けているらしい女中に、
「誰から?」と、激しく訊いた。
「はア、うかがっておきます。」となお先方へ返事しているので、
「誰だって訊いているのに……」と、小声で烈しくいうと、女中はあわてて送話器に、手をあてながら、
「南條様とおっしゃる方でございます。」と、小声でいった。
「南條! 女の人?」
「はい。」夫人の嶮《けわ》しい顔色に、女中はわがことのように顫《ふる》えていた。
「お貸し!」夫人は受話器をひったくった。
二
前川夫人は、女中を押しのけながら、
「もし、もし……」と、きびしい口調で呼びかけた。
「こちらは、ぜひ二、三日の内に、お目にかかりたいんですの。だから、ぜひご都合を伺っておいて頂きたいんですの。お願いします。」相手は、まだこちらを、女中とばかり思いながら、電話を切ろうとするのを、
「もし、もし、貴女《あなた》、誰方《どなた》です。」と、夫人は鋭い気勢で問いかけた。相手は、語調の急に変ったのに、気がつき、少々まごつきながら、
「あら、先だって、伺いました南條圭子と、おっしゃって下されば、ご主人はご存じでございます。」と、云った。
頭に在った新子とは違っているし、声もたしかに、新子ではないし、しかし夫人は語調を変えず、
「もし、もし、南條圭子さんですって! 私前川の妻の綾子ですが、主人にどんなご用でございましょうか。」と、切口上で訊くと、
「あら……」と、小さく、しばらく間を置いて、
「まあ、とんだ失礼を致しました。まあ奥さまで、いらっしゃいますか。私、お宅にお世話になっていました新子の姉で、ございますの。妹が、いろいろお世話になりまして……」と、言葉が改まった。
「まあ、新子さんのお姉さま。そうですか。それは、とんだ失礼を……あの主人に、どんなご用でございますか。」
姉が主人と交渉があるとすれば、妹の方がより以上に何かあるかもしれないと、女らしい敏感さで、ピンと神経を緊張させた。
「あのう、劇の方の後援をして頂いておりますの。」
「何でございますって……」
「劇、あのお芝居でございますの。私達、お芝居をやっておりますの。」
「新子さんも……」
「いいえ。私だけ……」
「まあ……それは。」
「はア、前川さ
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