見候処砲声漸く近く相成り候間、阪兵入京と相成らば、御所にも伺上|出可申《いでもうすべし》と罷帰《まかりかえ》り、門北お御所の方《かた》に当り一道の火気を発し、甚だ騒々|敷《しく》候間、是《これ》阪兵への内応と申居り候間、忽に鎮定、その内に伏見の砲声も追々遠く相成り、京軍勝利の様子に相成り候まゝ終夜砲声|鈍《にぶ》る事|無之《これなく》、朝四時迄にわづかに相止み申候。
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京都の一市民の戦争当夜の感じが、よく出ていると思う。
鳥羽伏見の戦いは、戦いと云うのでなく、一つの大競り合いである。通せ通さぬの問答からの喧嘩のようなものである。
小笠原壱岐守などが、もっと武将らしい計略があったならば、華々しき戦争が出来たのではないかと思う。
しかし、当時勤王思想が澎湃《ほうはい》として起って居り、幕府縁故の諸藩とも嚮背《こうはい》に迷って居り、幕軍自身が、新選組や会津などを除いた外は、決然たる戦意がなかったのであろう。
とにかく、幕府はすぐ瓦解して了《しま》い、明治政府は成立|間際《まぎわ》の事なので、この戦争についても、戦記の正確なものが乏しいのは、遺憾である。
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