仮睡のうちにまざまざと現れているように思われた。
忠直卿は思った。この女も、自分に愛があるというわけでは少しもないのだ。この女の嫣然《えんぜん》たる姿態や、妖艶な媚は皆|上部《うわべ》ばかりの技巧なのだ。ただ、大金で退引《のっぴき》ならず身を購《あがな》われ、国主という大権力者の前に引き据えられて是非もなく、できるだけその権力者の歓心を得ようという、切羽詰まった最後の逃げ道に過ぎないのだ。
が、この女が自分を愛していないばかりでなく、今まで自分を心から愛した女が一人でもあっただろうかと、忠直卿は考えた。
彼は今まで、人間同士の人情を少しも味わわずに来たことに、この頃ようやく気がつき始めた。
彼は、友人同士の情を、味わったことさえなかった。幼年時代から、同年輩の小姓を自分の周囲に幾人となく見出した。が、彼らは忠直卿と友人として交わったのではない。ただ服従をしただけである。忠直卿は、彼らを愛した。が、彼らは決してその主君を愛し返しはしなかった。ただ義務感情から服従しただけである。
友情はともかく、異性との愛は、どうであっただろう、彼は、少年時代から、美しい女性を幾人となく自分の周
前へ
次へ
全52ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング