って、それを嫌《いや》がりもしないので、いよいよ情を覚えてその手をしっかとにぎると、女は左の手をはずして、右の手で桶をささえると、左の手で氏長の手をわきにはさんだ。氏長はいよいよ悦《えつ》に入って、いっしょに歩いたが、しばらくして手を一度ぬこうとしたが、放さない。
越前一の強力といわれる氏長が力をこめて抜《ぬ》こうとしても抜けないのである。氏長は、おめおめとこの女について行く外はなかった。家に着くと、女は水桶をおろしてきて氏長の手をはずして、笑いながら、「どうしてこんな事をなさるのです。あなたは一体どこの方ですか」という、近く寄って見ると、いよいよ美しい。
「いや、自分は越前の者であるが、今度相撲の節会で召されて参るものである」というと、女はうなずいて「それは危いことである。王城の地はひろいからどんな大力の人がいるかもしれない。あなたも、至極の甲斐性《かいしょう》なしと云うわけではないが、そんな大事の場所へ行ける器量ではない。こうしてお目にかかるのも、御縁《ごえん》だからもし時間がゆるせば、私の家に三七日|逗留《とうりゅう》したらどうか。その間に、あなたをきたえて上げましょう」と、い
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