飲みながら、夜の更けるのを待つてゐた。
彼等は、粛々としてその身に迫る死の影を知らず、尚も三策の評議に余念がなかつた。三策とは即ち次の三つだ。
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○壬生屯所を囲み、焼討して新撰組を鏖殺《あうさつ》し、京都擾乱に乗じて、長州の兵を京都に入れる。
○成功の場合には、宮中を正論の公卿を以て改革する。
○京都一変の上は、中川宮を幽閉し奉り、一橋|慶喜《よしのぶ》を下坂せしめ、会津藩の官職を剥奪し、長州を京都の守護職に任ずる。
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血河の乱闘
近藤勇は玄関から、
「主人は居るか、御用改めであるぞ」
と、堂々と声をかけて、上り込んだ。
主人は直ぐに二階に向つて、
「皆様、来客調べて御座います」
と、大きな声で叫んだが、もう遅い。
「何だ/\」
同志でも来たのかと思つて、うつかり一番先に出て来た北副佶摩《きたぞへきちま》の頭を、勇の虎徹がずばりと割つた。
火の出る様な乱闘が続いた。
この事件に就ては、勇自身が近親に与へて書いた手紙に、詳しい。
「局中手勢の者ばかりにて、右徒党のもの、三條小橋縄手に二ヶ所|屯致《
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