りに浪士風人間の出入が激しいので、新撰組では、予てからその様子に不審を懐き、六月五日に思ひ切つて踏み込んでみると果して甲冑十組、鉄砲二三挺、その他長州人との往復文書が数通発見され、その中には、「機会は失はざる様」との頗《すこぶ》る疑はしい文句があつた。
 取り敢へず、武具類を土蔵に収めて封印して主人喜右衛門を壬生の屯所に引致して、拷問したところ、驚く可き陰謀が発見されたのである。
 喜右衛門と云ふのは、仮名でその実は江州の浪人|古高《こだか》俊太郎と云ひ、八月十八日の政変に就て、深く中川宮と松平|容保《かたもり》を怨み、烈風の日を待つて、火を御所の上手に放ち、天機奉仕に参朝する中川宮を始め奉り、守護職松平肥後守を途中に要撃しようとする、計画である。而も古高は、三條通り辺の旅宿客は、いろ/\の藩名を掲げてゐるが大抵は長州人であることまで自白した。
 愕然としてゐる新撰組にとつて、続いて、第二、第三の警報が町役人の手に依つて齎《もた》らされた。
「升屋の土蔵の封印を破つて、武具を奪ひ去つた者がある!」
「三條小路の旅宿池田屋惣兵衛方、及び縄手《なはて》の旅宿四国屋重兵衛方に、長州人や諸浪士
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