身投げ救助業
菊池寛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)飢饉《ききん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うめき[#「うめき」に傍点]
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 ものの本によると、京都にも昔から自殺者はかなり多かった。
 都はいつの時代でも田舎よりも生存競争が烈しい。生活に堪えきれぬ不幸が襲ってくると、思いきって死ぬ者が多かった。洛中洛外に激しい飢饉《ききん》などがあって、親兄弟に離れ、可愛い妻子を失うた者は世をはかなんで自殺した。除目《じもく》にもれた腹立ちまぎれや、義理に迫っての死や、恋のかなわぬ絶望からの死、数えてみれば際限がない。まして徳川時代には相対死などいうて、一時に二人ずつ死ぬことさえあった。
 自殺をするに最も簡便な方法は、まず身を投げることであるらしい。これは統計学者の自殺者表などを見ないでも、少し自殺ということを真面目に考えた者には気のつくことである。ところが京都にはよい身投げ場所がなかった。むろん鴨川では死ねない。深いところでも三尺ぐらいしかない。だからおしゅん伝兵衛は鳥辺山《とりべやま》で死んでいる。たいていは縊《くび》
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