青木の出京
菊池寛
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)行き交《こ》うている
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)自分の崇敬|措《お》く能わざる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のんびり[#「のんびり」に傍点]
−−
一
銀座のカフェ××××で、同僚の杉田と一緒に昼食を済した雄吉は、そこを出ると用事があって、上野方面へ行かねばならぬ杉田と別れて、自分一人勤めている△町の雑誌社の方へ帰りかけた。
それは六月にはいって間もない一日であった。銀座の鋪道の行路樹には、軽い微風がそよいでいたが、塵をたてるほど強いものではなく、行き交《こ》うている会社員たちの洋服はたいてい白っぽい合着に替えられて、夏には適《ふさ》わしい派手な色のネクタイが、その胸に手際よく結ばれていた。また擦れ違う外国の婦人たちの初夏の服装の薄桃色や水色の上着の色が、快い新鮮《フレッシュネス》を与えてくれた。
雄吉は食事を済した後ののんびり[#「のんびり」に傍点]とした心持に浸っていた。その上、彼はこの頃ようやく自分を見舞いかけ
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