青木が、同窓の人たちが大学を出て、銘々に世の中に受け入れられていくのを見ながら、無味乾燥な田舎に、その青春時代を腐らせていったもどかしさや、苦しさや、残念さを考えると、雄吉は、自分自身の恨みを忘れて、青木のために悲しまずにはおられなかった。
が、彼にとっては、煉獄といってよいほどの、苦しい生活を嘗めていたのにもかかわらず、青木はほとんど変っていなかった。雄吉のそうした憫みを受けるべく青木の顔は、昔の若さをほとんど失っていなかった。ことに青木の着ている合着は、雄吉の合着よりも新しくもあれば、上等の品でもあった。
雄吉には、青木のそうした無変化さが、少し物足りなかった。雄吉の悪魔的な興味は、もう少し零落して、しなびきっている青木を見たかったのだ。
雄吉は、何か話題を見つけようと思った。が、昔の生活を回想することは、青木にとっても、雄吉にとっても苦々しいことであったし、それかといって、現在の二人の生活には、話題となるべきなんの共通点もなかった。
「君はちっとも変らないじゃないか」
「ああ変らないよ」と、青木は答えた。その声は、昔の青木と少しも変らないように、雄吉にとっては威圧的に響いた
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