た。しかも、それは、彼の苦学的生活が、苦しくなれば苦しくなるにつれて、深められていった。
 青木が、大学でも不始末を演じて、除名されたという噂をきいたのは、それから間もないことであった。が、その時には、埋もれていく青木の天分を惜しむほどの好意も、雄吉の心のうちには残っていなかった。

   三

 今、カフェXXXXの一隅の卓《テーブル》を隔てて、その青木は雄吉の眼前に座っている。雄吉の心のうちに、ダニのように食いついて離れない青木に対する悪感を、青木は少しも知らないのかも知れないと、雄吉は思った。青木に対する昔の好意が――自分の身を滅ぼすことをも辞さないほどの好意の破片《かけら》でもが、雄吉の心のうちに残っているとでも、青木は誤解しているのかも知れないと、雄吉は思った。が、どう思っていてもいい、もうわずかに二十六時間だ。いやこの会見をさえ、手際よく切り上げれば、後はすぐ、さっぱりするのだと雄吉は考えた。
 が、雄吉の前に腰かけながら、黙って目を落している青木を見ていると、彼は六年という長い間、田舎に埋れていた青木の生活を、考えずにはおられなかった。負惜しみが強く、アンビシャスであった
前へ 次へ
全45ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング