督促の手紙を出した。青木からは、それに対して一通のハガキさえ来なかった。彼は、最後にほとんど憤りに震えているような文面の手紙を出した。それに対しても、青木は沈黙を守り続けた。
 もう、その頃の雄吉は、自分の身代り的行動を、心の底から後悔し始めていた。それと同時に、現在の苦学生的生活の苦悩が、ひしひしと身に食い込んできた。そのために、彼は自分の過去におけるばからしさと、青木の背信とを恨んだ。
 が、雄吉の食らうべき第二の韮《にら》は、もうそこに用意されていた。雄吉が京都に来た翌年の春であった。雄吉や青木と同じクラスであった原田という男が、故郷の岡山から上京する道で、京都に立ち寄って雄吉を訪問した。彼は、雄吉の顔を見ると、すぐ、
「君は、青木のことをちっとも知るまいな。あいつはこの頃大変だぜ。すっかり遊蕩児になりきってしまってね。友人の品物を無断で持ち出すやら、金を借り倒すやら大変だ。近藤さんのうちも、とうとうお払い箱さ。なんでも、近藤さんのうちの貴金属をずいぶん持ち出して、売り飛ばしていたんだってね。あいつのは、まるきりでたらめなんだ。後で露見しようがしまいが、そんなことは平気なんだ。あ
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