、縫ひ付けられてゐた。彼女はそれを見ようか見まいかと思ひまどつた。母の秘密を、死後に暴くことになりはしまいかと恐れたが、彼女はそれが母の大切な遺書か、何かのやうにも思はれた。彼女は、思ひ切つて、おそる/\それを取り出して見た。意外にも、それは台紙を剥がした一葉の写真だつたのである。写真は、絶えず母の肌と触れてゐたために、薄れてはゐたけれども、まぎれもなく直也が、学生時代の姿だつた。
美奈子は、その写真を見たときに、母の本当の心が判つたやうに思つた。母が、黄金の力のために偽《いつはり》の結婚をしたときも、美しき妖婦として、群がる男性を飜弄してゐたときにも、彼女の心の底深く、初恋の男性に対する美しき操は、汚れなき真珠の如く燦然として輝いてゐたのであつた。いな、彼女は初恋の人に対する心と肉体との操を守りながら、初恋を蹂み躙られた恨《うらみ》を、多くの男性に報いてゐたと云つてもよかつた。
美奈子は、母に対する新しい感激の涙に咽びながら、隣室にゐた直也を呼ぶと、黙つてその写真と肌襦袢とを示した。
暫らく、それを見詰めてゐた直也は、溢れ出《い》づる涙が、美奈子の手前一寸は支へてゐたが、到頭堪
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