六
直也が瑠璃子の部屋に入つて来たとき、瑠璃子は夢ともなく現《うつゝ》ともないやうに眠つてゐた。
生命そのもの、活動そのものと云つたやうな直也の姿と、死そのもの、衰弱そのものと云つたやうな瑠璃子の蒼ざめた瀕死の姿とは、何と云ふ不思議な、しかしあはれな、対照をしただらう。青春の美しさと、希望とに輝きながら、肩をならべて歩いた二年前の恋人同士として、其処に何と云ふおそろしい隔《へだたり》が出来たことだらう。
美奈子は、看護婦達を遠ざけた。そして、母の耳許に口を寄せて叫んだ。
「お母さま、あの、直也様がいらつしやいました。」
段々、衰へかけてゐる瑠璃子の聴覚には、それが容易には聞えなかつた。美奈子は再び叫んだ。
「お母さま、直也様がいらつしやいました。」
瑠璃子の土のやうに蒼い面《かほ》の筋肉が、かすかに、動いたやうに思つた。美奈子の声が漸く聞えたのである。美奈子は、三度目に力を籠めて叫んだ。
「お母様、直也様がいらつしやいました。」
ふと母の頬が、――二日の間に青白く萎びてしまつた頬が、ほのかにではあるがうす赤く染まつて行つたかと思ふと、その落窪んだ二つの眼から、大粒の涙がほ
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