うな顔色を示した。が、彼の忠告は間に合つただらうか。いな、彼の忠告は、|後の祭《ツーレート》だつた。一時間だけ、遅れ過ぎた。
彼の忠告は、災禍の火を未然に消す風とならずして、却つてその火を煽り立てた。彼が、夫人の危険を説いたときに、青年はもう、夫人から弄ばれてゐたのだ。否、弄ばれたと思つてゐたのだ。夫人から、弄ばれた恨《うらみ》と憤《いきどほり》とに、燃えてゐた青年の心を、彼はいやが上に煽つた。
『お前ばかりではない、お前の肉親の兄も、あの女に弄ばれて、身を過つたのだ! 身を亡したのだ!』と。
「いや! 御忠告ありがたう! 御忠告ありがたう!」
青年は、さう云ひながら立ち上つた。が、あまり興奮した為だらう、彼は、眼が眩んだやうに、よろめいた。
紳士は、周章《あわて》て、青年の身体を支へた。
「いや、あまりに興奮なさつては困りますよ。お心を落着けて、気を静めて!」
が、青年はそれを振切つた。
「いや、捨てゝ置いて下さい! 大丈夫です、大丈夫です!」
さう云ひながら、青年は廊下へよろめきながら出た。『大丈夫です!』と、口では云つたものの、彼はもう決して、大丈夫ではなかつた。
彼
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