らなく思つたことが、深く悔いられた。
 母の心持は、もつと露骨になつて来た。
「青木さん。貴君《あなた》が、妾《わたし》と結婚なさらうなんて、それは一時の迷ひです。貴君のお若い心の一時の出来心《ウィム》です。貴君には妾《わたし》の心が少しも分つてゐないのです。いゝえ、妾《わたし》の本体が少しも分つてゐないのです。妾《わたし》の心が、どんなに荒《すさ》んでゐるかそれが貴君には、少しも分つてゐないのです。妾《わたし》が、貴君を本当に愛してゐるかどうかさへ、貴君には分らないのです。さう/\、ワイルドの警句に、『結婚の適当なる基礎は相方《さうはう》の誤解なり。』と云ふ皮肉な言葉がありますが、貴君の妾《わたし》に対する、結婚申込なんか、本当に貴君の誤解から出てゐるのです。」
 青年には、瑠璃子の言葉などは、少しも耳に入つてゐないやうだつた。彼は、烈しい怒《いかり》のために、口が利けなくなつたやうに、たゞ身体を顫はせてゐる丈《だけ》だつた。
 が、そんなことは少しも意に介せないやうに、瑠璃子は落着いた口調で、話しつゞけた。
「貴君《あなた》は、妾《わたし》の心持が分らないばかりでなく、貴君に対する
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