日は散歩に出ようぢやありませんか。」
美奈子は、一寸駭いて足を止めた。ふと気が付くと、青年の顔は烈しい怒りのために、黒くなつてゐた。
六
美奈子は、母の真意を測りかねた。
母も、確《たしか》に青年とたつた二人|限《きり》、散歩する約束をした筈である。そして、あの大切な返事を青年に与へる約束をした筈である。それだのに、なぜ自分を呼び止めるのであらう。さうした機会を、彼等に与へようとして、席を外さうとする、自分を呼び止めるとは。
「えゝつ!」美奈子は、つい返事とも、駭きとも何とも付かぬ言葉を出してしまつた。
「ねえ! 図書室なんか、明日いらつしやればいゝのに。今夜は強羅公園へ行かうと思ふの。ねえ! いゝでせう。」
母はいつもよりも、もつと熱心に美奈子に勧めた。
「でも。」
美奈子は、躊躇した。彼女は、さうためらひながらも、青年の顔を見ずにはゐられなかつたのである。彼は、部屋の一隅の籐椅子に腰を下してゐたが、その白い顔は、烈しい憤怒のために、充血してゐた。彼は、爛々たる眸を、恨めしげに母の上に投げてゐたのである。美奈子は、さうした青年の容子を見ることが、心苦しか
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