主人から嫌はれた犬のやうに、部屋の中をウロ/\歩いてゐた。彼のオド/\した眼は、燃ゆるやうな熱を帯びながら、瑠璃子の上に、注がれてゐた。美奈子は、青年の容子に、抑へ切れぬ嫉妬を感じながらも、然し何となく気の毒であつた。犬のやうに、母を追うてゐる、母の一挙一動に悲しんだり欣んだりする青年の容子が、気の毒であつた。
 その日は、事もなく暮れた。平素《いつも》のやうに、夕方の散歩にも行かなかつた。食堂から帰つて来ると三人は気まづく三十分ばかり向ひ合つてゐた後に、銘々自分の寝室に、まだ九時にもならない内に、退いてしまつた。
 翌る日が来ても、瑠璃子の容子は前日と少しも変らなかつた。美奈子には、時々優しい言葉をかけたけれども、青年には一言も言はなかつた。青年の顔に、絶望の色が、段々濃くなつて行つた。彼の眼は、恨めしげに光り初めた。
 到頭、夜が来た。瑠璃子と青年との間に、交された約束の夜が来た。
 美奈子は、夜が近づくに従つて、青年が自分の存在を、どんなに呪つてゐるかも知れないと思ふと部屋にゐることが、何うにも苦痛になつて来た。
 晩餐の食堂から、帰るときに、美奈子は、そつと母達から離れて、自分
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