玉桂《たまかつら》の瑠璃子夫人と云つてゐますよ。ハヽヽヽ。」と、学生は事もなげに答へた。

        五

 葬場に於ける遅参者が、信一郎の直覚してゐた通《とほり》、瑠璃子と呼ばるゝ女性であることが、此大学生に依つて確められると、彼はその女性に就いて、もつといろ/\な事が知りたくなつた。
「それぢや、青木君とあの瑠璃子夫人とは、さう大したお交際《つきあひ》でもなかつたのですね。」
「いやそんな事もありませんよ。此半年ばかりは、可なり親しくしてゐたやうです。尤もあの奥さんは、大変お交際《つきあひ》の広い方で、僕なども、青木君同様可なり親しく、交際してゐる方です。」
 大学生は、美貌の貴婦人を、知己の中に数へ得ることが、可なり得意らしく、誇らしげにさう答へた。
「ぢや、可なり自由な御家庭ですね。」
「自由ですとも、夫の勝平氏を失つてからは、思ふまゝに、自由に振舞つてをられるのです。」
「あ! ぢや、あの方は未亡人ですか。」信一郎は、可なり意外に思ひながら訊いた。
「さうです。結婚してから半年か其処らで、夫に死に別れたのです。それに続いて、先妻のお子さんの長男が気が狂つたのです。今では
前へ 次へ
全625ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング