書けば、少しでも寂しさが紛らせるかと思つて、机の前に坐つて見たけれども纏つた文句は、一行だつて、ペンの先には、出て来なかつた。母と青年とが、いつもの散歩路を、寄り添ひながら、親しさうに歩いてゐる姿だけが、頭の中にこびり付いて離れなかつた。
その中に、寂しさと、彼女自身には気が付いてゐなかつたが、人間の心に免れがたい嫉妬とが、彼女を立つても坐つても、ゐられないやうに、苛《さいな》み初めてゐた。彼女は、高い山の頂きにでも立つて、思ふさま泣きたかつた。彼女は、到頭ぢつとしてはゐられないやうな、いら/\した気持になつてゐた。彼女は、フラ/\と自分の部屋を出た。的もなしに、戸外に出たかつた。暗い道を何処までも何処までも、歩いて行きたいやうな心持になつてゐた。が、母に対して、散歩に出ないと云つた以上、ホテルの外へ出ることは出来なかつた。彼女は、ふとホテルの裏庭へ、出て見ようと思つた。其処は可なり広い庭園で、昼ならば、遥に相模灘を見渡す美しい眺望を持つてゐた。
美奈子が、廊下から、そつとその庭へ降り立つたとき、西洋人の夫妻が、腕を組合ひながら、芝生の小路を、逍遥してゐる外は、人影は更に見えなかつ
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