瑠璃子の帰るのを待つてゐるらしかつた。が、瑠璃子は却々《なか/\》帰つて来なかつた。
 青年はやゝ待ちあぐみかけたらしかつた。彼はもう明るく電燈の点いた部屋の中を、四五歩宛行つたり来たりしてゐたが、半《なかば》独語のやうに美奈子に云つた。
「お母様は、却々お帰りになりませんね。」
「はい。」
 窓に倚つて輝き初めた星の光をボンヤリ見詰めてゐた美奈子は、低い声で聞えるか聞えないかのやうに答へた。青年は、自分一人で出て行きたいらしかつたが、美奈子を一人ぼつちにして置くことが、気が咎めるらしかつた。彼は、到頭云ひ憎くさうに云つた。
「美奈子さん。如何です、一緒に散歩をなさいませんか。お母様をお待ちしてゐても、なかなかお帰りになりさうぢやありませんから。」
 青年は、口籠りながらさう云つた。
「えゝつ!」
 美奈子は彼女自身の耳を疑つてゐるかのやうに、つぶらなる目を刮《みは》つた。

        三

 美奈子に取つては、青年から散歩に誘はれたことが、可なり大きな駭《おどろ》きであつた。四五日一緒に生活して来たと云ふものの、二人向ひ合つては、短い会話一つ交したことがなかつた。
 その相手か
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