しも纏まらない内に、もう彼女を東京駅の赤煉瓦の大きい建物の前に下《おろ》してゐた。
二
美奈子等の自動車の着くのを、先刻《さつき》から待ち受けてゐたかのやうに、駅の群集の間から、五六人の青年紳士が、自動車から降り立つたばかりの、瑠璃子夫人の周囲を取り囲むのであつた。
「お見送りに来たのですよ。」
皆は、口を揃へて云つた。
夫人は軽い快い駭《おどろ》きを、顔に表しながら云つた。
「おや! 何《ど》うして御存じ?」
「はゝゝ、お駭きになつたでせう。お隠しになつたつて駄目ですよ。我々の諜報局には、奥さんのなさることは、スツカリ判つてゐるのですからね。」
外交官らしい、霜降りのモーニングを着た三十に近い紳士が、冗談半分にさう云つた。
「それは驚きましたね、小山さん! 貴君《あなた》間諜《スパイ》でも使つてゐるのぢやないの? おツほゝゝ。」
夫人も華やかに笑つた。
「使つてをりますとも。女中さんなんかにも、気を許しちやいけませんよ。」
「ぢや! 行先も判つて?」
「判つてゐますとも。箱根でせう。而も、お泊りになる宿屋まで、ちやんと判つてゐるのです。」
今度は、長髪
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