に、軽く打ち振りながら、グン/\急ぎ足で歩いた。
美奈子は、一体此の青年が、近所のどの家に入るのかと、わざと自分の歩調を緩めながら、青年の後姿を眼で追つてゐた。
その時に、彼女を駭かすやうな思ひがけないことが、起つた。
「おや! あの方、家へいらつしやるのぢやないかしら。」
美奈子は、思はずさう口走らずにはゐられなかつた。
九段の方へグン/\歩いて行くやうに見えた青年は、美奈子の家の前まで行くと、だん/\その門に吸ひ付けられるやうに歩み寄るのであつた。
青年は、門の前で、ホンの一瞬の間、佇立した。美奈子は、やつぱり通りがかりに、一寸邸内の容子を軽い好奇心から覗くのではないかと思つた。が、佇ずんで一寸何か考へたらしい青年は、思ひ切つたやうに、グン/\家の中へ入つて行つた。ステッキを元気に打ち振りながら。
「お客様ですわ、奥様の。」
女中は、美奈子の前の言葉に答へるやうに言つた。
いかにも、女中の言ふ通《とほり》、母の客間《サロン》を訪ふ青年の一人に違ひないことが美奈子にも、もう明かだつた。
「お前、あの方知つてゐるの?」
美奈子は、心の裡の動揺を押しかくすやうにしながら、
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