美奈子は、満されざる空虚を、心の裡に残しながら、寂しくその墓地の前を通り過ぎた。
彼女は、その途端ふと学校で習つた『株《くひぜ》を守つて兎を待つ』と、云ふ熟語を思ひ出した。約束もしない人が、何うして一定の時日に、一定の場所に来ることがあるだらう。さう思つて来ると、自分の子供らしさが、恥しいと同時に、寂しい頼りない気がした。或は、あれ切りもう一生逢はれない人かも知れない。
彼女は、怏々として、暗いむすぼれた心持で電車に乗つた。今までは楽しく明るい世の中が、何だか急に翳つて来たやうにさへ思はれた。
が、美奈子の乗つた九段両国行の電車が、三宅坂に止まつたとき、運転手台の方から、乗つて来る人を見たとき、美奈子は思はずその美しい目を眸《みは》つた。
六
美奈子が、駭《おどろ》いて目を眸《みは》つたのも、無理ではなかつた。車内へツカ/\と、這入つて来て、彼女の直ぐ斜前へ腰を降ろしたのは、紛れもない、墓地で見た彼の青年であつた。美奈子が二週間もの間、外《よそ》ながらもう一度見たいと思つてゐたあの青年であつた。彼女は、一目見たばかりではあつたが、上品なその目鼻立を見ると、直
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