た。
「さうです。それはさうかも知れません。が、貴女《あなた》が貴女の考へに依つて生きる自由があるやうに、僕も僕の考へを実行する自由を主張するのです。奥さん! 青木君の弟を、あなたの脅威から救ふことに、僕は相当の力を尽すつもりです。それは死んだ青木君に対する僕の神聖な義務だと思ふのです。」
「どうか、御随意に。」夫人は、冷然と云つた。
「青木さんの弟に取つては、本当に有難迷惑だとは思ひますが、然し止むを得ませんわ。貴君が躍起になつた御忠告が、あの方の妾《わたくし》に対するお心を、どの位醒させるか、ゆつくり拝見したいと思ひますわ。」
 夫人は、最後の止めを刺すやうに、高飛車に冷然と笑ひながら、云ひ放つた。


 初恋

        一

 瑠璃子夫人は、あの太陽に向つて、豪然と咲き誇つてゐる向日葵《ひまはり》に譬へたならば、それとは全く反対に、鉢の中の尺寸の地の上に、楚々として慎やかに花を付けるあの可憐な雛罌粟《ひなげし》の花のやうな女性が、夫人の手近にゐることを、人々は忘れはしまい。それは云ふまでもなく、彼の美奈子である。
 父の勝平が死んだとき十七であつた美奈子は、今年十九になつ
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