受取つていたゞくのです。貴女は、此の品物を当然受取るべきお心覚えがあるでせう。ないとは、まさか仰しやれないでせう。」
 信一郎も、女性に対する凡ての遠慮を捨てゝゐた。二人は男女の性別を超えて、格闘者として、相対してゐた。
 信一郎に、さう云ひ切られると、夫人は暫らく黙つてゐた。白い瓢《ひさご》の種のやうな綺麗な歯で、下唇を二三度噛んだがやがて気を換へたやうに、
「それでは、貴君《あなた》は此時計の元の持主を、妾《わたくし》だと仰しやるのですか。」
「さうです。それを確信してもよい理由があるのです。」信一郎は凜としてさう云ひ放つた。
「おやさう!」夫人は事もなげに応《う》けながら、「貴君が、さうお考へになりたければ、さうお考へになつても、別に差支はございませんよ。それでは、この時計もお受取りして置かうぢやありませんか。どうせ一度は、お預かりした品物ですもの。」
 夫人の態度は、愈《いよ/\》逆になり、愈々《いよ/\》毒を含んでゐた。
「それで、御用事と仰しやるのはこれ丈《だけ》!」
 夫人は信一郎と一刻でも長く同席することが不快で堪らないやうに急き立てるやうに附け加へた。
 信一郎は、夫
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