一郎は、やつとさう思ひ返した。
小間使は、探すのに手間が取れたと見え、暫らくしてから帰つて来た。そのふつくらとした小さい手の裡には、信一郎には忘れられない時計が、薄気味のわるい光を放つてゐた。
夫人は小間使から、無造作にそれを受取ると、信一郎の卓の上に軽く置きながら、
「さあ! どうぞ。よく検《あら》ためてお受取り下さいませ! お預りしたときと、寸分違つてゐない筈ですから。」
夫人は、毒を喰《くら》はゞ皿までと云つたやうに、飽くまでも皮肉であり冷淡であつた。
八
信一郎は、差し出されたその時計を見たときに、その時計の胴にうすく残つてゐる血痕を見たときに、弄ばれて非業の死方をした青年に対する義憤の情が、旺然として胸に湧いた。それと同時に、青年を弄んで、間接に彼を殺しながら而も平然として彼の死を冷視してゐる――神聖な遺品《かたみ》の時計をさへ、蔑み切つてゐる夫人に対して、燃ゆるやうな憎しみを、感ぜずにはゐられなかつた。
信一郎は、かすかに顫へる手で、その時計を拾ひ上げながら、夫人の面《おもて》を真向から見詰めた。
「いや、確《たしか》にお受取りしました。お預
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