差出した夫人の手紙が、悪魔からの呪符か何かのやうに、厭はしく感ぜられた。もし、人が見てゐなかつたら、それを、封も切らないで、寸断することも出来た。が、妻が見て居る以上、さうすることは却つて彼女に疑惑を起させる所以《ゆゑん》だつた。信一郎は、おづ/\と封を開いた。
 手紙と共に封じ込められたらしい、高貴な香水の匂が、信一郎の鼻を魅するやうに襲つた。が、もうそんなことに依つて、魅惑せらるゝ信一郎ではなかつた。
 彼は敵からの手紙を見るやうに警戒と憎悪とで、あわたゞしく貪るやうに読んだ。
 
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『先刻《さつき》は貴君《あなた》を試したのよ。妾《わたくし》の客間へ、妾《わたくし》と戯恋《フラート》しに来る多くの男性と貴君が、違つてゐるか何《ど》うかを試したのですわ。妾《わたくし》は戯恋《フラート》することには倦き/\しましたのよ。本当の情熱がなしに、恋をしてゐるやうな真似をする。擬似恋愛《フラーテイション》! 妾《わたくし》は、それに倦き/\しましたのよ。身体や心は、少しも動かさないで、手先|丈《だけ》で、恋をしてゐるやうな真似をする。恋をしてゐるやうな所作|丈《だけ》を
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