ら、夫の背信を教へられて、妻は可なり心を傷けられながら赤面して黙つたに違ひない。さう思ふと、突然運転手などを寄越す瑠璃子夫人に、彼は心からなる憤怒を感ぜずにはゐられなかつた。
信一郎は、可なり激しい、叱責するやうな調子で運転手に云つた。
「一体何の用事があるのです?」
運転手は、ニヤ/\気味悪く笑ひながら、
「宅の奥様のお手紙を持つて参つたのです。何の御用事があるか私には分りません。返事を承はつて来い! お帰《かへり》になるまで、お待《まち》して返事を承はつて来い! と、申し付けられましたので。」
運転手は、待つてゐることを、云ひ訳するやうに云つた。
手紙を持つて来たと聴くと、信一郎は可なり狼狽した。妻に、内密《ないしよ》で、ある女性を訪問したことが露顕してゐる上に、その女性から急な手紙を貰つてゐる。さうしたことが、どんなに妻の幼い純な心を傷けるかと思ふと、信一郎は顔の色が蒼くなるまで当惑した。彼は、妻に知られないやうに、手早く手紙を受け取らうと思つた。
「手紙! 手紙なら、早く出したまへ!」
信一郎は、低く可なり狼狽した調子でさう云つた。
運転手が、何か云はうとする時に、
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