長く停まつてゐた。今日の自動車も、やつぱり何時もの自動車ではないかと、信一郎は最初思つてゐた。が、近づくに従つて、何時もとは、可なり停車の位置が違つてゐるのに気が付いた。何うしても、彼の家を訪ねて来た訪客が、乗り捨てたものとしか見えなかつた。
が、段々家に近づくに従つて、恐ろしい事実が、漸く分つて来た。何だか見たことのある車台だと云ふ気がしたのも、無理ではなかつた。それは、紛れもなくあの青色大型の、伊太利《イタリー》製の自動車だつた。信一郎も一度乗つたことのある、あの自動車だつた。さうだ、此の前の日曜の夜に、荘田夫人と同乗した自動車に、寸分も違つてゐなかつた。
夫人が、訪ねて来たのだ! さう思つたときに、信一郎の心は、激しく打ち叩かれた。当惑と、ある恐怖とが、胸一杯に充ち満ちた。
出先で、妖怪に逢ひ這々《はふ/\》の体で自分の家に逃げ帰ると、その恐ろしい魔物が、先廻りして、自分の家に這入り込んでゐる。昔の怪譚にでもありさうな、絶望的な出来事が、信一郎の心を、底から覆してしまつた。瑠璃子夫人の美しい脅威に戦いて、家庭の平和の裡に隠れようとすると、相手は、先廻りして、その家庭の平和を
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