る方なんて、妾《わたくし》仕方なくお相手いたしてをりますのよ。妾《わたくし》が、妾《わたくし》の方から求めてお友達になりたいと思つたのは、本当は貴君《あなた》お一人なのですよ。」
 信一郎は、さう云ひながら、何事もないやうに、笑つてゐる夫人の美しさに、ある凄味をさへ感じた。夫人の口吻《くちぶり》から察すれば、夫人は周囲に集まつてゐる男性を、蠅同様に思つてゐるのかも知れない。もし、さうだとすると、信一郎なども、新来の初心な蠅として、たゞ一寸した珍しさに引き止められてゐるのかも知れない。さうした上部《うはべ》丈《だ》けの甘言に乗つて、ウカ/\と夫人の掌上などに、止まつてゐる中には、あの象牙骨の華奢な扇子か何かで、ピシヤリと一打《ひとうち》にされるのが、当然の帰結であるかも知れないと信一郎は思つた。
「でも、今日は帰らせていたゞきたいと思ひます。又改めて伺ひたいと思ひますから。」
 信一郎は、可なり強くなつて、キツパリと云つた。
 夫人も、遉《さすが》にそれ以上は、勧めなかつた。
「あらさう。何うしてもお帰りになるのぢや仕方がありませんわ。やつぱり、妾《わたくし》の心持が、貴方《あなた》には
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