応の理財科の阿部さん、第一銀行の重役の阿部保さんのお子さん。その次の方が日本生命へ出ていらつしやる深井さん、高商出身の。その次の方が、寺島さん、御存じ? 近代劇協会にゐたことのある方ですわ。其の次の方は、芳岡さん! 芳岡伯爵の長男でいらつしやる。彼処《あそこ》に一人離れていらつしやる方が、富田さん! 政友会の少壮代議士として有名な方ですわ。みんな私《わたくし》のお友達ですわ。」
夫人は、夫人の眼に操られて、次から次へと立ち上る男性を、出席簿でも調べるやうに、淀みなく紹介した。
信一郎は、可なり激しい失望と幻滅とで、夫人の言葉が、耳に入らぬ程不愉快だつた。自分一人を友達として選ぶと云つた夫人が、十人に近い男性を、友人として自分に紹介しようとは、彼は憤怒と嫉妬との入り交じつたやうな激昂で、眼が眩《くら》めくやうにさへ感じた。彼は直ぐ席を蹴つて帰りたいと思つた。が、何事もないやうに、こぼれるやうに微笑してゐる夫人の美しい顔を見てゐると、胸の中の激しい憤怒が春風に解くるやうに、何時の間にか、消えてゆくのを感じた。
コロネーションに結つた黒髪は、夫人の長身にピツタリと似合つてゐた。黒地に目
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