めておくれ。」
瑠璃子は、狼狽して、召使に命じると、ピツタリと閉ざされた部屋の中に、今宵に限つて、妙に薄暗く思はれる電燈の下に、小さく縮かまつてゐた。人間同士の争ひでは、非常に強い瑠璃子も、かうした自然の脅威の前には、普通の女らしく臆病だつた。海岸に立つてゐる、地形の脆弱な家は、時々今にも吹き飛ばされるのではないかと思はれるほど、打ち揺いだ。海岸に砕けてゐる波は、今にも此の家を呑みさうに轟々たる響を立てゝゐる。
瑠璃子には、結婚して以来、初めて夫の帰るのが待たれた。何時もは、夫の帰るのを考へると、妙に身体が、引き緊つてムラ/\とした悪感が、胸を衝いて起るのであつたが、今宵に限つては、不思議に夫の帰るのが待たれた。勝平の鉄のやうな腕が何となく頼もしいやうに思へた。逗子の停車場から自動車で、危険な海岸伝ひに帰つて来ることが何となく危《あやぶ》まれ出した。
「かう荒れてゐると、鐙摺《あぶずり》のところなんか、危険ぢやないかしら。」と女中に対して瑠璃子は、我にもあらず、さうした心配を口に出してしまつた。
その途端に、吹き募つた嵐は、可なり宏壮な建物を打ち揺すつた。鎖で地面へ繋がれてゐる廂
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