のですもの。此間、お家が広いので、夜寝室の中に、一人ゐると何だか寂しく心細くなると、申しますと、勝彦さんは、それなら毎晩部屋の外で番をしてやらうと仰《おつ》しやるのですよ。妾《わたくし》冗談だとばかり、思つてゐますと、一昨夜二時過ぎに、廊下に人の気勢《けはひ》がするので、扉《ドア》を開けて見ますと、勝彦さんが立つていらつしやるぢやありませんか。それが、丁度中世紀の騎士《ナイト》が、貴婦人を護る時のやうに、儼然として立つていらつしやるのですもの。妾《わたくし》可笑しくもあれば、有難くも思つたわ。妾《わたくし》此の頃、智恵のある怜悧な方には、飽き/\してゐますの、また、その智恵を、人を苦しめたり陥れたりする事に使ふ人達に、飽き/\してゐますのよ。また、人が傷け合つたり陥れ合つたりする世間その物にも、愛想が尽きてゐますのよ。妾《わたくし》、勝彦さんのやうな、のんびりとした太古の心で、生きてゐる方が、大好きになりましたのよ。貴方の前でございますが、何うして勝彦さんを捨てゝ、貴方を選んだかと思ふと、後悔してゐますのよ。おほゝゝゝゝゝ。」
爽かな五月の流が、蒼い野を走るやうに、瑠璃子は雄弁だつた
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