なかつたのよ。お寝坊の貴方《あなた》の事だから、どうせ十一時近くまでは大丈夫だと思つてゐたのよ。昨夜あんなに遅く帰つて来たのに、よくまあ早くお目覚になつたこと。この花美しいでせう。一番大きくて、一番色の烈しい花なのよ。妾《わたくし》これが大好き。」
さう云ひながら、瑠璃子は右の手に折り持つてゐた、真紅の大輪のダリヤを、食卓《テーブル》の上の一輪挿に投げ入れた。
勝平は、何うかして瑠璃子をたしなめようと思ひながらも、彼女の快活な言葉と、矢継早の微笑に、面と向ふと、彼は我にもあらず、凡ての言葉が咽喉のところに、からんでしまふやうに思つた。
「昨夜《ゆうべ》、よくお眠りになつて? 妾《わたくし》芝居で疲れましたでせう、今朝まで、グツスリと寝入つてしまひましたのよ。こんなに、よく眠られたことはありませんわ、近頃。」
昨夜の騒ぎを、親子三人のあさましい騒ぎを、知つてゐるのか知らないのか、瑠璃子はその美しい顔の筋肉を、一筋も動かさずに、華奢な指先で、軽く箸を動かしながら、勝平に話しかけた。
勝平は、心の裡に、わだかまつてゐる気持を、瑠璃子に向つて、洩すべき緒《いとぐち》を見出すのに苦しんだ
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