い時がある。瑠璃子の心が火のやうに烈しく、石のやうに堅くても、羅衣《うすもの》にも堪へないやうな、その優しい肉体は、荘田の強い把握のために、押し潰されてしまひはせぬか。さう考へると、直也の心は、恐ろしい苦悶と焦燥のために、烈しく動乱した。が、それよりも、自分の父が自分の恋人を奪ふ悪魔の手下であることを知ると、彼は憤怒と恥辱とのために、逆上した。
 彼は瑠璃子の手紙を握りながら、父の部屋へかけ込んだ。父の姿は見えないで、女中が座敷を掃除してゐた。
「お父様は何うした。」
 彼は女中を叱咤するやうに云つた。
「今しがた、荘田様へ行らつしやいました。」
 瑠璃子の承諾の手紙を読むと、鬼の首でも取つたやうに、荘田の所へ馳け付けたのだと思ふと、直也の心は、恐ろしい憤怒のために燃え上つた。

        五

 美奈子が、小切手帳を持つて来ると、荘田は、傍の小さい卓《デスク》の上にあつた金蒔絵の硯箱を取寄せて不器用な手付で墨を磨りながら、左の手で小切手帳を繰拡げた。
「はゝゝゝゝ、貴方《あなた》にも、お礼をうんと張り込むかな。」彼は、さう得々と哄笑しながら、最初の一葉に、金二万円也と、小学校の
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